2016年09月16日

【旧版】GS Media事件欧州司法裁判決(2016年9月8日)の紹介

GS Media BV v. Sonoma Media Netherlands BV事件
欧州司法裁判決(2016年9月8日)の紹介
〜インターネット上に無断アップロードされた著作物へのリンクが侵害となる条件〜


慶應義塾大学法科大学院 奥邨弘司


はじめに
 インターネット上のリンク行為について、著作権侵害(間接侵害ではなくて直接侵害)が成立しうることを示したものとして注目される本判決について、速報性を重視して、事実関係と判決内容の概要を紹介するとともに、簡単なコメントを付した。詳細な検討や、日本法への示唆についての考察は、別途稿を改めて行いたい。
 なお、速報性重視の点から、急いで作業を行ったため、誤字・脱字、判決の誤読などが少なからず含まれるかもしれず、その点は、ご容赦願いたい。適宜、加筆訂正は行いたい。


1 事実の概要
 Playboy誌を発行しているSanoma社は、ドイツのテレビ司会者Britt Dekkerのヌード写真を、同誌の2011年12月号に掲載予定であった。Sanoma社は撮影したカメラマンから、当該写真の著作権について独占許諾を得ていた。
 前記雑誌の発行前である、同年10月のある日、GeeStijl.nlというwebニュースサイトを運営するGS Media社に対して、匿名の人物から、前記写真のファイルがホストされているサイトのURLが送信されてきた。同日、Sonoma社から、GS Media社の親会社に対して、GeenStijlに写真を掲載しないようにとの連絡が届いたが、GS Media社は「Ms Dekkerのヌード写真」という記事を掲載し、問題の写真中の1枚の一部と、「お待ちかねのあなたに写真へのリンクへはこちら」という文言と共に、写真へのリンクを掲載した。
その後、Sonoma社から記事の掲載停止の要請がGS Media社に届くが、同社は、2度、新たな記事を掲載し、写真へのリンク(当初写真を掲載していたサイトが、Sonoma社からの要請で写真を削除したので、写真を掲載している別のサイトへのリンク)も掲載した。
 Sonoma社は、GS Media社による、リンクと写真の一部の掲載が著作権侵害などに当たるとして、オランダで訴訟を提起した。地裁は著作権侵害を認めたが、控訴裁は認めず、事件は最高裁に上告された。オランダ最高裁は、著作権者の同意なく、インターネット上に掲載され自由にアクセス可能な著作物に対してリンクを提供する行為が、情報社会指令の定める公衆への送信権の侵害となるか否かについて、欧州司法裁判所の先決判断を求めた。

2 判決の概要
 「従来判示してきたように、『公衆への送信』という概念は、著作物の『送信行為』と『公衆』に対する著作物の送信という、累積的な2つの基準を含むものである。」また、「公衆への送信の」概念への該当性は、個別に判断が必要であって、相互依存的な追加の基準も考慮する必要がある。すなわち、第1に考慮すべきは、送信行為を行う者の果たす役割の不可欠性(送信者の行為がなければ受信者は著作物を享受できない)と意図性(受信者に著作物を享受のする機会を与えることを意図して送信を行う)である。第2に、「公衆」概念は、不確定数の潜在的視聴者を意味し、かなり多数であることを含意されている。第3は、情報社会指令の定める公衆への送信における「送信」とは営利的な性質を有しているという点である。
 Svensson事件判決(C-466/12, EU:C:2014:76)によれば、「問題となっている送信行為が『追加的公衆』に向けられた者ではない場合、公衆への送信は成立しない。」リンクについても、追加的公衆に向けられたものでなければならないところ、「著作物が他のwebサイト上で、著作権者の許諾のもと、全てのインターネットユーザーに自由に利用可能となっている場合、リンク行為は、情報社会指令上の公衆への送信には該当しない」が、逆に著作権者の同意がない場合は、公衆への送信に該当しないとはいえない。
 もっとも、GS Media社やドイツ政府、欧州委員会などからは、無許諾でインターネット上に掲載された著作物へのリンクを掲載する行為を全て著作権侵害とすることは、表現の自由への過大な制約であり、自由および公共の利益と著作権者の利益のバランスを求める、情報社会指令に合致しないとの指摘がある。
この点、表現の自由にとってのインターネットの重要性、そして、リンクがインターネットおよび大量の情報の交換に貢献していることを考慮しなければならない。さらに、「特に個人にとって、リンクが誘導しようとしているwebサイトが保護されている著作物へのアクセスを提供しているのかどうか、そして、必要な場合は、それらの著作物がインターネットに掲載されることについて著作権者が同意しているかどうかを確かめるのは難しい。」また、リンク掲載後に、リンクした者が知らないうちに、リンク先のwebサイトの内容が変更されることもある。
 以上を踏まえると、公衆への送信該当性の判断に当たっては、「他のwebサイト上で自由に利用可能な著作物へのリンクが、利益を目的としない者によって行われる場合、当該者が、当該著作物が著作権者の同意なくインターネット上に掲載されたということを、現に知らないおよび合理的に知ることもできないという事実は考慮される必要がある。」「逆に、自身が掲載したリンクがインターネット上に違法に掲載された著作物へのアクセスを提供することを限に知っていたまたは知り得べきであった者――例えば著作権者によってその旨通知された場合など――は、そのようなリンクの提供は、情報社会指令の定める『公衆への送信』に該当すると考えるべきである。」オリジナルのサイトで、著作物へのアクセスを会員に限定するための制限が行われている場合に、そのような制限を回避することを可能とするようなリンクを掲載する行為も、同様に理解されるべきである。「さらに、リンクの掲載が利益を目的として行われるとき、そのようなリンクを掲載する者は、関連する著作物が、当該リンクが誘導するwebサイト上に、違法に公開されていないことを確かめるため必要なチェックを行うことが期待される。ゆえに、当該著作物が保護されるものであること、かつ、インターネット上での公開に対する著作権者の同意がもしかしたら欠けるかもしれないことについて、十分な認識を持って。当該リンクを掲載したものと推定される。そのような状況下で、かつ、覆滅可能な推定について覆滅がなされない場合、インターネット上に違法に掲載された作品へのリンクを掲載することは、『公衆への送信』に該当する。」
 オランダ最高裁への回答としては、情報社会指令については次のように解釈すべきである。すなわち「著作権者の同意なく他のwebサイト上で自由に利用可能となっている著作物へのリンクをwebサイト上に掲載することが、同指令の規定するところの『公衆への送信』に該当するか否かを立証するためには、当該リンクの提供が、他のwebサイト上における著作物の公開が違法なものであることを知らずかつ合理的に知ることもできなかった者によって営利を目的とせずになされたものであるか、逆に、認識を推定させるような状況でかつそのような目的(注:営利目的)で行われたものであるかを判断しなければならない。」

3 コメント
 著作権者の同意なく他のwebサイト上で自由に利用可能となっている著作物へのリンクをwebサイト上に掲載することが、公衆への送信となり得る、という本判決の結論は――それ自体の当否を別として――これまでの欧州司法裁の一連の判決を踏まると、ある程度「想定の範囲内」のものであったといえよう。
 Svensson事件判決で、欧州司法裁は、「他のwebサイトで自由に利用可能な著作物に対するリンクをwebサイト上に提供することは『公衆への送信』には該当しない」と判示したため、一見すると本判決と矛盾するように見える。しかしながら、同事件の場合、著作権者の許諾のもとにインターネット上に掲載され、インターネットユーザーなら誰でも自由にアクセス可能な著作物に対するリンクが問題であったところ、本件の場合は、同じくインターネットユーザーなら誰でも自由にアクセス可能な著作物ではあるが、そもそもインターネットへの掲載自体は著作権者の同意を得ていない、違法なものであるという差があった。本判決は、その差に注目して、Svensson事件判決と矛盾しない形で結論を導いたものである。
 本判決を理解するための、3つの重要ポイントについて簡単に触れたい。

(1)リンクは送信か
 本判決は、リンクは当然送信行為であるとするが、その理由については詳しく触れていない。この点、Svensson事件判決は、「送信行為」は広く解釈されるべきであるとした上で、「公衆を構成する者が、その機会を利用するかどうかは別として、アクセス可能なように公衆に利用可能とされていれば」十分に「送信行為」に該当するとし、リンクは「『利用可能化』と考えられるべきであり、ゆえに、情報社会指令における『送信行為』である」とする。(注:情報社会指令では、利用可能化は、公衆への送信に含まれると規定されている。)

(2)追加的公衆
 一旦、公衆への送信が行われた著作物をさらに公衆に送信する行為が問題となり得るかについて、欧州司法裁は、後者の送信の相手先たる公衆が「追加的公衆(new public)」に該当するか否かに着目する。追加的公衆とは、「著作権者が最初の公衆への送信を許諾した際に考慮されていなかった公衆」(Svensson事件判決)を意味する。結果、同事件の場合、著作権者がインターネット上での公開を許諾している以上、元々インターネットユーザーなら誰でもアクセス可能だったのであり、それへのリンクを提供しても、新たにアクセス可能となる者が増えるわけではなく、追加的公衆への送信とは解されないから、公衆への送信権の対象行為とは解されなかった。一方、本件の場合は、最初の公衆への送信自体が、著作権者の許諾を得ていないので、リンクの提供も公衆への送信権の対象行為と解されたわけである。(詳しくは、稿を改めて検討したいが、「追加的公衆」の概念は、公衆への送信の場合における「消尽」論と捉えてもよいかもしれない。)

(3)送信と営利目的
 本判決は、情報社会指令の定める公衆への送信における「送信」とは営利的な性質を有しているとするが、この認識は本判決に特有なものではない。例えば、本判決が参照するFootball Association Premier League事件判決(C‑403/08, EU:C:2011:631)では「情報社会指令における『送信』は営利的性質である」と説示し、同判決が参照するSGAE事件判決(C‑306/05, EU:C:2006:764)では「利益の追求は、公衆への送信を認定するための必須の条件ではないが、本件の事実関係のもとでは、送信は営利的性質を有するのは、いずれにしても明確である」と説示している。一貫した傾向といえる。

 ところで、前記(1)(2)で触れたような考え方を前提とするならば、著作権者の同意なくインターネット上に掲載されている著作物へのリンクを提供する行為は全て、公衆への送信に該当する、と解すべきように思われる。しかしながら、本判決は、そのようなリンクであっても
  @ リンクが営利目的でない場合は、リンク先が、同意なくインターネット上に掲載され
    た著作物であることを現に知らず、かつ、合理的に知り得なかった場合
  A リンクが営利目的である場合は、同意なくインターネット上に掲載された著作物であ
    ることを現に知っていたまたは合理的に知り得たと推定されるが、そのような推定を
    覆滅できた場合
は、公衆への送信にあたらないとする。営利目的云々は、前記(3)との関係であろうが、いずれにしても、なぜ、@Aが除外されるのかについて、説得的な理由が提供されているようには見えない。強いていえば、表現の自由やインターネットの重要性への配慮から、一定の譲歩をしただけに過ぎないように思われる。仮にそうだとすると、@Aはある種の例外といえ、いずれも厳格に解釈され、該当するのは難しいということになるかもしれない。また、営利目的かどうかは、@になるかAになるかで、極めて重要な分水嶺であるところ、どのような場合を営利目的と捉えるかが、今後の議論の中心になってくるようにも思われる。さらに、Aの場合は、どうすれば推定を覆滅できるのかも、重要となろう。
 なお、本判決は、「公衆への送信」に該当するか否かを判断する基準を示したのみであり、「公衆への送信」に関する権利の侵害に当たるか否かを判断しているわけではない。したがって、一見分かりづらいが、本判決は、著作権者の同意なくインターネット上に掲載されている著作物へのリンクを提供する行為であっても、@またはAの場合は、公衆への送信に該当しないと判断したことになる。そのようなリンク提供行為は全て公衆への送信であるが、@またはAの場合は、著作権(公衆への送信に関する権利)の侵害にはならないと判断したわけではない。もっとも、本判決の場合も、@またはAは、そもそも公衆への送信に該当しないから、当然、同権利の侵害になることはあり得ない。

4 まとめにかえて
 日本法への示唆は、別途稿を改めて検討するつもりだが、一言だけ触れると、冒頭述べたように、本判決は、従来の欧州司法裁の関連裁判例の延長上に存在するものであって、その意味では「想定の範囲内」であるが、基礎となる考え方(例えば前記(1)〜(3)など)自体が、我が国では必ずしも馴染みのないものであることを考えると、我が国著作権法制から見れば、本判決(の考え方)は、少なくとも現状、「想定の範囲外」ということになるだろう。

以上

2016年09月11日

GS Media事件欧州司法裁判決(2016年9月8日)の紹介

GS Media BV v. Sonoma Media Netherlands BV事件
欧州司法裁判決(2016年9月8日)の紹介
〜インターネット上に無断アップロードされた著作物へのリンクが侵害となる条件〜
【改訂版】


<旧版へのリンク>

慶應義塾大学法科大学院 奥邨弘司


はじめに
 インターネット上のリンク行為について、著作権侵害(間接侵害ではなくて直接侵害)が成立しうることを示したものとして注目される本判決について、速報性を重視して、事実関係と判決内容の概要を紹介するとともに、簡単なコメントを付した。詳細な検討や、日本法への示唆についての考察は、別途稿を改めて行いたい。
 なお、速報性重視の点から、急いで作業を行ったため、誤字・脱字、判決の誤読などが少なからず含まれるかもしれず、その点は、ご容赦願いたい。適宜、加筆訂正は行いたい。


1 事実の概要
 Playboy誌を発行しているSanoma社は、ドイツのテレビ司会者Britt Dekkerのヌード写真を、同誌の2011年12月号に掲載予定であった。Sanoma社は撮影したカメラマンから、当該写真の著作権について独占許諾を得ていた。
 前記雑誌の発行前である、同年10月のある日、GeeStijl.nlというwebニュースサイトを運営するGS Media社に対して、匿名の人物から、前記写真のファイルがホストされているサイトのURLが送信されてきた。同日、Sonoma社から、GS Media社の親会社に対して、GeenStijlに写真を掲載しないようにとの連絡が届いたが、GS Media社は「Ms Dekkerのヌード写真」という記事を掲載し、問題の写真中の1枚の一部と、「お待ちかねのあなたに写真へのリンクへはこちら」という文言と共に、写真へのリンクを掲載した。
 その後、Sonoma社から記事の掲載停止の要請がGS Media社に届くが、同社は、2度、新たな記事を掲載し、写真へのリンク(当初写真を掲載していたサイトが、Sonoma社からの要請で写真を削除したので、写真を掲載している別のサイトへのリンク)も掲載した。
 Sonoma社は、GS Media社による、リンクと写真の一部の掲載が著作権侵害などに当たるとして、オランダで訴訟を提起した。地裁は著作権侵害を認めたが、控訴裁は認めず、事件は最高裁に上告された。オランダ最高裁は、著作権者の同意なく、インターネット上に掲載され自由にアクセス可能な著作物に対してリンクを提供する行為が、情報社会指令の定める公衆への送信権の侵害となるか否かについて、欧州司法裁判所の先決判断を求めた。

2 判決の概要
 「従来判示してきたように、『公衆への送信』という概念は、著作物の『送信行為』と『公衆』に対する著作物の送信という、累積的な2つの基準を含むものである。」また、「公衆への送信」の概念への該当性は、個別に判断が必要であって、相互依存的な追加の基準も考慮する必要がある。すなわち、第1に考慮すべきは、送信行為を行う者の果たす役割の不可欠性(送信者の行為がなければ受信者は著作物を享受できない)と意図性(受信者に著作物を享受のする機会を与えることを意図して送信を行う)である。第2に、「公衆」概念は、不確定数の潜在的視聴者を意味し、かなり多数であることが含意されている。第3は、情報社会指令の定める公衆への送信における「送信」とは営利的な性質を有しているという点である。
 Svensson事件判決(C-466/12, EU:C:2014:76)によれば、「問題となっている送信行為が『追加的公衆』に向けられた者ではない場合、公衆への送信は成立しない。」この点、リンクについても、追加的公衆に向けられたものでなければならないところ、「著作物が他のwebサイト上で、著作権者の許諾のもと、全てのインターネットユーザーにとって自由に利用可能となっている場合、リンク行為は、情報社会指令上の公衆への送信には該当しない」が、逆に著作権者の同意がなく利用可能となっている著作物の場合は、リンク行為が公衆への送信に該当しないとはいえない。
 もっとも、GS Media社やドイツ政府、欧州委員会などからは、インターネット上に無許諾で掲載された著作物に対するリンクを掲載する行為を全て著作権侵害とすることは、表現の自由に対する過大な制約であり、自由および公共の利益と著作権者の利益のバランスを求める、情報社会指令に合致しないとの指摘がある。
この点、表現の自由にとってのインターネットの重要性、そして、リンクがインターネットおよび大量の情報の交換に貢献していることを考慮しなければならない。さらに、「特に個人にとって、リンクが誘導しようとしているwebサイトが、保護されている著作物へのアクセスを提供しているのかどうか、そして、必要な場合は、それらの著作物がインターネットに掲載されることについて著作権者が同意しているかどうかを確かめるのは難しい。」また、リンク掲載後に、リンクした者が知らないうちに、リンク先のwebサイトの内容が変更されることもある。
 以上を踏まえると、公衆への送信該当性の判断に当たっては、「他のwebサイト上で自由に利用可能な著作物へのリンクが、利益を目的としない者によって行われる場合、当該者が、当該著作物が著作権者の同意なくインターネット上に掲載されたということを、現に知らないおよび合理的に知ることもできないという事実は考慮される必要がある。」「逆に、自身が掲載したリンクがインターネット上に違法に掲載された著作物へのアクセスを提供することを現に知っていたまたは知り得べきであった者――例えば著作権者によってその旨通知された場合など――は、そのようなリンクの提供は、情報社会指令の定める『公衆への送信』に該当すると考えるべきである。」オリジナルのサイトで、著作物へのアクセスを会員に限定するための制限が行われている場合に、そのような制限を回避することを可能とするようなリンクを掲載する行為も、同様に理解されるべきである。「さらに、リンクの掲載が利益を目的として行われるとき、そのようなリンクを掲載する者は、関連する著作物が、当該リンクが誘導するwebサイト上に、違法に公開されていないことを確かめるため必要なチェックを行うことが期待される。ゆえに、当該著作物が保護されるものであること、かつ、インターネット上での公開に対する著作権者の同意がもしかしたら欠けるかもしれないことについて、十分な認識を持って、当該リンクを掲載したものと推定される。そのような状況下で、かつ、覆滅可能な推定について覆滅がなされない場合は、インターネット上に違法に掲載された作品へのリンクを掲載することは、『公衆への送信』に該当する。」
 オランダ最高裁への回答としては、情報社会指令については次のように解釈すべきである。すなわち「他のwebサイト上で著作権者の同意なく自由に利用可能となっている著作物へのリンクをwebサイト上に掲載することが、同指令の規定するところの『公衆への送信』に該当するか否かを立証するためには、当該リンクの提供が、他のwebサイト上における著作物の公開が違法なものであることを知らずかつ合理的に知ることもできなかった者によって営利を目的とせずになされたものであるか、逆に、そのような認識を推定させるような状況でかつそのような目的(注:営利目的)で行われたものであるかを判断しなければならない。」

3 コメント
 他のwebサイト上で著作権者の同意なく自由に利用可能となっている著作物へのリンクをwebサイト上に掲載することが、公衆への送信となり得る、という本判決の結論は――それ自体の当否を別として――これまでの欧州司法裁の一連の判決を踏まると、ある程度「想定の範囲内」のものであったといえよう。
 Svensson事件判決で、欧州司法裁は、「他のwebサイトで自由に利用可能な著作物に対するリンクをwebサイト上に提供することは『公衆への送信』には該当しない」と判示したため、一見すると本判決と矛盾するように見える。しかしながら、同事件の場合、著作権者の許諾のもとにインターネット上に掲載され、結果、インターネットユーザーなら誰でも自由にアクセス可能な著作物に対するリンクが問題であったところ、本件の場合は、同じくインターネットユーザーなら誰でも自由にアクセス可能な著作物ではあるが、そもそもインターネットへの掲載自体は著作権者の同意を得ていない、違法なものであるという差があった。本判決は、その差に注目して、Svensson事件判決と矛盾しない形で結論を導いたものである。
 
 本判決を理解するための、3つの重要ポイントについて簡単に触れたい。

(1)リンクは送信か
 本判決は、リンクは当然送信行為であるとするが、その理由については詳しく触れていない。この点、Svensson事件判決は、「送信行為」は広く解釈されるべきであるとした上で、「公衆を構成する者が、その機会を利用するかどうかは別として、アクセス可能なように公衆に利用可能とされていれば」十分に「送信行為」に該当するとし、リンクは「『利用可能化』と考えられるべきであり、ゆえに、情報社会指令における『送信行為』である」とする。(注:情報社会指令では、利用可能化は、公衆への送信に含まれると規定されている。)

(2)追加的公衆
 一旦、公衆への送信が行われた著作物をさらに公衆に送信する行為が問題となり得るかについて、欧州司法裁は、後者の送信の相手先たる公衆が「追加的公衆(new public)」に該当するか否かに着目する。追加的公衆とは、「著作権者が最初の公衆への送信を許諾した際に考慮されていなかった公衆」(Svensson事件判決)を意味する。
 同事件の場合、著作権者がインターネット上での公開を許諾している以上、元々インターネットユーザーなら誰でもアクセス可能だったのであり、それへのリンクを提供しても、新たにアクセス可能となる者が増えるわけではなく、追加的公衆への送信とは解されない。結果、前記リンクは、公衆への送信に該当しないとされた。
 一方、本件の場合は、最初の公衆への送信自体が、著作権者の許諾を得ていないので、リンクの提供は、公衆への送信に該当するとされたわけである。(詳しくは、稿を改めて検討したいが、「追加的公衆」の概念は、公衆への送信の場合における「消尽」論と捉えてもよいかもしれない。)

(3)送信と営利目的
 本判決は、情報社会指令の定める公衆への送信における「送信」とは営利的な性質を有しているとするが、この認識は本判決に特有なものではない。例えば、本判決が参照するFootball Association Premier League事件判決(C‑403/08, EU:C:2011:631)では「情報社会指令における『送信』は営利的性質である」と説示し、同判決が参照するSGAE事件判決(C‑306/05, EU:C:2006:764)では「利益の追求は、公衆への送信を認定するための必須の条件ではないが、本件の事実関係のもとでは、送信は営利的性質を有するのは、いずれにしても明確である」と説示している。一貫した傾向といえる。

 ところで、前記(1)(2)で触れたような考え方を前提とするならば、インターネット上に著作権者の同意なく掲載されている著作物に対してリンクを提供する行為は、全て、公衆への送信に該当する、と解すべきように思われる。しかしながら、本判決は、そのようなリンクであっても

 @ リンクが営利目的でない場合は、同意なくインターネット上に掲載された著作物である
   ことを現に知らず、かつ、合理的に知り得なかった場合
 A リンクが営利目的である場合は、同意なくインターネット上に掲載された著作物である
   ことを現に知っていたまたは合理的に知り得たと推定されるが、そのような推定を覆滅
   できた場合

は、公衆への送信にあたらないとする。営利目的云々は、前記(3)との関係であろうが、いずれにしても、なぜ、@Aが除外されるのかについて、説得的な理由が提供されているわけではない。なぜ、リンク先が違法なものであることの知・不知で結論が変わるのか、なぜ、営利性があるとリンク先の違法性を認識していたと推定されるのか、全く根拠が示されていない。唐突感が強いのである。表現の自由やインターネットの重要性への配慮から、一定の場合を、公衆への送信から除外する譲歩をしたのだろうが、そこから、その理由まで汲みとることはできないのである。
 また、本判決が示した条件が、一定の譲歩にすぎないのだとすると、@Aはある種の例外といえ、いずれも厳格に解釈され、それに該当するのは難しいということになるかもしれない。また、@になるかAになるかは、リンク提供者にとって、極めて大きな違いであるところ、営利目的があるかどうかがその分水嶺である結果、どのような場合を営利目的と捉えるかが、今後の大いに問題となってこよう。さらに、Aの場合は、どうすれば推定を覆滅できるのかも、重要となろう。
 なお、本判決は、「公衆への送信」に該当するか否かを判断する基準を示したものである。これは何を意味するのか。第1に、一定の場合、リンクを張る行為が著作権(公衆への送信権)を「直接侵害」する余地があること示したことになる。なぜなら、「公衆への送信」に該当すると結論する以上、それは間接利用(侵害)行為ではなくて、直接利用(侵害)行為となるからである。第2に、GS Media社の行為が、「公衆への送信」に関する権利の侵害に当たるか否かについて、直接の結論を示しているわけではない。(先決判断であるため当然といえば当然である。)GS Media社の行為が、公衆への送信に関する権利を侵害するかは、権利制限規定への該当性なども考慮した上で、最終判断されることになる。もっとも、@またはAに当たる場合行為は、そもそも公衆への送信に該当しないから、当然、同権利の侵害になることがあり得ないのは明確である。

4 まとめにかえて
 日本法への示唆は、別途稿を改めて検討するつもりだが、一言だけ触れると、冒頭述べたように、本判決は、従来の欧州司法裁の関連裁判例の延長上に存在するものであって、その意味では「想定の範囲内」であるが、基礎となる考え方(例えば前記(1)〜(3)など)自体が、我が国では必ずしも馴染みのないものであることを考えると、我が国著作権法制から見れば、本判決(の考え方)は、少なくとも現状、「想定の範囲外」ということになるだろう。

以上