ロースクールで、知的財産法と企業内法務を担当しています@OKMRKJです。
この記事は法務系 Advent Calendar 2018の12月14日分です。
若手弁(@wakateben)さんからバトンを受け取りました。自分の参加資格は怪しいのですが、図々しいので知らないふり・・・。
インハウス志望の学生向けの企業内法務の授業も担当していますが、そこで話した内容中「二面性」というキーワードで括れるものをまとめてみました。
ほとんど、自分のための備忘録ですね m(_ _)m
通常、「二面性」という言葉は、どちらかというとマイナスの印象を伴っているかも知れない。例えば、「二面性のある人」というと、表の顔と裏の顔があって、みたいなイメージが強いのではないかと思う。ただ、この記事では、むしろ肯定的な意味で、「二面性」を捉えていきたい。
いきなり話はそれるが、研究者に転じて、かれこれ15年になる。最初は、(研究者になってから悩むなよという話しではあるが)研究とは何かがよく分からなかった。無我夢中で、周りの人の様子を見よう見まねしているうちに、ようやく気付いたのは、研究の一番の基本は、比較と分類だということだった。
曖昧模糊とした対象を比べて、そこから何らかの物差しを見いだし、それに基づいて分類する。もちろん、その先に考察があればなお良いわけだが、比較・分類・考察を1人の研究者が全て行わなければならないものでもない。比較と分類を行う研究者、その成果を踏まえて考察する研究者という役割分担も、ある学問分野全体としてみれば、その深化に貢献するのである。
企業内法務の分野は、研究対象として捉えられるよりも、実務として、生き物として捉えられてきた分野である。そのため、私自身は、企業内法務の様々な事象を、まずは、比較と分類することに努力していきたいと思っている。それに基づく考察は、他の方、もしくは次代の方にお任せしたい。というわけで(もっともらしい言い訳を述べた後に、最も単純な)比較・分類の成果として、二面性について語りたい。
@ 当事者と第三者
外部法律事務所の行う企業法務と、企業の法務部門が行う企業法務の違いは、当事者性にあるというのはよくいわれることである。確かに、他人の問題ではなくて、自分の(会社の)問題として、法務課題に取り組むのが、企業内法務の特徴であろう。
ただ、よくよく考えてみると、企業の法務部門の当事者性は、対社外の文脈でこそ強調されるものであり、対社内では、むしろ、本当の当事者であるビジネス現場とは一線を引いた第三者性を強調しなければならない文脈も少なくないように思うのである。例えば、ある事業部の製品の欠陥で、取引先に損害を発生させてしまったとする。このとき、社外の取引先との関係でいえば、法務部門は、相手先に迷惑を掛けた当事者である企業の一員として、問題解決にあたらなければならない。しかし、一度社内に戻ってきて、問題解決を進めていく上では、当該事業部と一体になるのではなくて、一歩引いたところから、原因発見と課題解決、再発防止に取り組み、場合によっては責任追及を行わなければならない。
その意味では、(特に学生や若手の法務担当者に対して)企業内法務の当事者性をあまりに強調するのは、間違ったメッセージにならないかと心配してしまう。
A ブレーキとアクセル
ダメなものはダメといって、止めなければならない法務部門は、確かにブレーキの役目を期待されている。しかし、ビジネスを推進することこそ企業のレゾンデートルであることを考えれば、その企業の「内」にある法務部門である以上、ビジネスの推進を手助けするアクセルとしての役割も果たさなければならない。最近はやりのフレーズである、ガーディアンとパートナー、守りの法務と攻めの法務、ローヤーとビジネス・パーソン、なども、(個々に見ると色々と差異はあるものの)基本的には同様の問題意識が反映されているのだろう。
とはいえ、今更の感のある「二面性」であり、敢えて触れるまでもないとも思ったが、それだけに外すわけにもいかず、取り上げた。
B 悲観と楽観
契約業務に関わっていていつも思ったのは、ビジネス部門は皆楽観的であるのに対して、(だからこそではあるが)法務としては悲観的な視点を持たざるを得ないということ。
このビジネスが上手くいけば、この技術開発が上手くいけば、その先こうなってああなって、市場の占有率がこれくらいになって、売上げと利益もこんなに、というバラ色の話しを、ビジネス部門から聞かされた経験のない企業内法務担当者はいないだろう。
そんなときほとんどの法務担当者は、また水を差してしまうのか、自分でも思いながら、「そうですね。是非、そうなるようみんなで頑張りましょう。法務も全力で取り組みます・・・そこでなんですが、まあ、今のお話しのように考えづらいんですけどね、ただ、法務としては、老婆心というか役目というかですね、万に一つですね、上手く行かなかった場合の、対応策が弱いんではないかなと、現状の契約案では・・・。△△△のトラブルがあった場合はですね、こういう対策ができるように・・・」などと、1人悲観的なシナリオを踏まえた手当を説かねばならなかったりするのが、常であろう。
ただ、一方で、かなり深刻な案件で、それを関係者が皆理解しているときに、法務がいつものように悲観的な視点から取り組んでしまうと(法務にとっては通常運転なので、特に気にならないとしても)周りにとっては、後がないのではという連想につながりかねない。深刻な案件で、皆がそれを認識しているとき、法務にはむしろ、「大丈夫、なんとか解決策はあります。一緒に頑張りましょう」と楽観的な視点を提供し、皆を安心させ力づける役割が期待される面もある。
C 全体と個別
企業内法務も、外部法律事務所と同様に、クライアントの利益を最大限にすることをその使命とすべきであるのはいうまでもない。契約交渉への参加や契約書のレビューを依頼してきた現場、訴訟に巻き込まれて助けを求めてきた事業部、新規ビジネスの法的適合性について相談に来た部署、などは、皆法務部門にとって、クライアントである。そのこと自体は間違いがない。
しかしながら同時に重要なのは、法務部門にとっての究極的なクライアントは、個々の事業部やビジネス現場ではなくて、企業そのものであるという視点であろう。事業部やビジネス現場の集合体が企業である以上、事業部などの利益になることは、概ね、企業全体の利益となることは事実である。しかし、常に、部分最適と全体最適が一致するとは限らないのは、自明のことである。そのとき、直接のクライアントである事業部などのためではなくて、究極のクライアントである企業全体のために活動しなければならない。そしてこのことは、法務の看板を掲げている以上、事業部門の傘下にある法務部(課・室)であっても同じだと思う。普段は、当該事業部門の一部として、その事業部門のために業務を遂行する法務部門であって問題ないし、そうあるべきなのだが、めったにないことではあるものの、仮に、その事業部にとっての利益が、全社的な不利益につながることが(手を尽くしても)避けがたくなったとき、事業部門傘下の法務部(課・室)であっても、企業全体の利益を優先して行動する必要がある。
(同様の視点は、ブレーキとアクセル、ガーティアンとパートナーに関しても当てはまる。個別のビジネスでアクセル役を果たし、CEOのパートナーとして経営に参画する、その一方で、ブレーキとしての役目、ガーディアンとしての役目を、躊躇することなく実行に移さなければならないのは、究極のクライアントである全社の不利益が予見されるときである。)
D 説得と納得
法務の仕事は、論理で、周りをそして相手を説得することである。ただ、論理による説得は、ときに、感情的な反発を芽生えさせてしまうことがある。論理が正しく、そこに隙がなければないほど、説得される方は逃げ場がなくなり、説得を受け入れる一方で、反発心を抱くことがあり得る。一つ一つの反発心が小さくても、いつかそれが大きくまとまらないとも限らない。
反発なく、つまり、嫌々でなく受け入れてもらうためには、説得で留まらず、相手の納得を得るところまで進む必要がある。説得されて、相手が得心し、自分のことと思ったときに納得が生まれる。説得に基づく行動はどこか他律的である一方、納得に基づく行動は少なからず自律的であり、長続きする。
そのような意味での納得を得るためには、論理プラスαが必要となる。相手の立場を慮り、面子を立て、言い分を汲み取っていかなければ、納得を得ることは難しい。説得するためには話し上素でなければならないが、納得を得るためには話し上手である以上に聞き上手でなければならない。
と、順不同に5つの二面性を取り上げてきた。まだまだこの調子で(冷静と情熱、専門と総合、慎重と大胆、手続きと結果という具合に)続くのだが、それは次の機会とし、本記事の最後に、(恥ずかしいぐらい)簡単な考察をしておきたい。
取り上げた二面性、常にどちらかに大きく傾いているというのは良くなくて、企業内法務としては、両方を上手く使い分けることが求められるのはいうまでもないし、だからこそ「二面性」と題したつもりである。もちろん、時と場合、そして担当者の個性によって、ある項目についてはこちら側、別の項目についてはこちら側という具合に変化したり、また、今回はこちら側に振れたけど、次の機会には逆に振れた、というようなこともあり得るだろう。同時に両方を実現することはできない以上、時々に、適切な方を選んでいくしかない。
ただ、どちらの側を選択すべきか分からないぐらい悩んだときは、やはり、A〜Dの項目に関してはそれぞれ前者(ブレーキ、悲観、全体、説得)を選ぶべきだろうと私は思っている。何故か。答えは、企業は、組織であり、そこには、法務部門以外の部門も存在するからだ。つまり、A〜Dの項目に関して後者(アクセル、楽観、個別、納得)を選ぶ部署は、法務以外にも存在する一方、前者を選び、それを基に業務を進められる適切な部署(そう期待されている部署)の最有力候補は法務部だからだ。古くさい法務観と言われるかも知れないが、普段は別として、当該企業に一朝事あるときは、司々が、その本来の責務を果たすべきであり、法務の本務はやはり前者だろう、というのが私なりの現時点での考察結果である。
バトンタッチは Tetsuya Oi さんへです。よろしくお願いします。